おばあちゃんのnintendogs日記

ヤフーブログから引っ越してきました。

手袋

母は、手袋をしない。
凍えるような寒さでも、手袋はしない。
手袋をしなくなったのには理由がある。

結婚して初めて迎えるお正月。
年越しの準備にと、
銀行へ振り込まれた父のボーナスを下ろしに行って、
帰り道、通帳とお金の入った手提げを落としてしまった。
手提げの持ち手が手から滑り落ちたのに、
手袋をしていて気が付かなかったのだ。

銀行には、すぐ連絡したし、
通帳には、ほとんど残高がなかったのだが、
落としたお金も通帳も戻ってこなかった。

母は、このことがあって以来、
手袋はしなくなった。
60年以上経った今でも、それは変わらない。
物を落とすこともなかった。

父が、このことで一切母を責めなかった話は、
以前にも書いたが、
実は父にも、苦い経験があった。
仕事帰りに、息抜きで立ち寄ったパチンコ屋で
カバンを置き引きされたのである。
逃げていく犯人を追いかけて、
交番の前を通りかかり、
線路の向こう側に逃げたから追いかけてくれと頼んだら、
「それは、向こう側の交番の管轄だから」
と、断られたのである。
仕方なく、追いかけたら、
電信柱に、カバンがぶら下げられていた。
現金は抜き取られていたが、
仕事の書類はそのまま残されていた。
父は、以後、パチンコを一切しなくなった。
これも、60年以上前の話である。

オリンピック召致の「お・も・て・な・し」スピーチで、
失くした財布が戻ってくる町というのを聞いていて、
このことを思い出してしまった。
60年も前ならそうだったねと、
笑って言えるのだろうか。