母の鏡台

父が亡くなってから、
母は、ずっと父の財布を使っていた。
こげ茶の折りたたみ式の札入れで、
かさばらなくて良いと、
母は、喜んで使っていた。
父の形見だということもあって、
特別に大切にしていた。

その財布を紛失したのが、
４ヶ月ほど前だった。

　：買い物から帰ってきたら無くなっていたから、
　　きっとどこかで落としたんだよ。

と、母は言っていたが、
その時、一緒に外出した私は、
帰宅後に、母が手提げから財布を取り出すところを見ていたので、
絶対、家の何処かにあると言い続けてきた。
数日は、家の中を探し回っていた母も、
すっかり諦めて、新しい財布を買ったが、

　：前の方が使いやすかった。

と、しきりに文句を言っていた。

つい先日、母が、今度は小銭入れを紛失した。
一緒に家の中を探しながら、

　：こんなところには無いよね。

と言いながら、
鏡台の引き出しを外して、
奥の隙間を探ると、
何かが奥の方に挟まっていた。
手を突っ込んで引っ張り出すと、
母が４ヶ月前に紛失した父の形見の財布だった。
母は、戻ってきた財布に大喜びしていたが、
何故そんな所に入っていたのかは、
母にもわからなかった。

後日、姉に報告したところ、

　：お母さんが無くなったと騒ぐ物のほとんどは、
　　鏡台の近くにあるのよ。

と言っていた。
そういえば、最近見当たらないと言っていたＤＳ本体も、
先日、そのあたりで見かけた記憶があった。