老いと向き合う

母は、物を失くすことが増えた。
約束をしても、忘れてしまう。
もう、できないからと、
お金の管理を子供たちに任せた。

：もう長くないから

というのが、口癖になった。

しかし、不思議と悲壮感は無い。
物がなくなっても、

：そのうち出てくるよ。

と、楽観的である。
そして、その言葉通りに、
数日経てば、失くした物が出てくる。
無かったことすら忘れていることも、
しばしばである。

物忘れは、近づいた死への恐怖を忘れさせるためと、
昔、有名な芸人さんがテレビで語っていたが、
今の母を見ていると、
本当にその通りだと実感する。

以前は、母が、

：もう長くない

と言う度に、悲しかったが、
最近は、母と一緒に笑うことにしている。