古時計

母の家では、ずっとゼンマイ式の柱時計を使っていた。
前の家を建てた時にお祝いで貰った物だと聞いているから、
すでに５０年以上使っていることになる。
居間の一番高いところから、
いつも家族を見守ってきた時計だ。

柱時計のネジ巻きは、
腕を高く上げ続けての作業である。
１週間に１回、鉄製の大きな金具で
２個のゼンマイをカリカリと巻くのは、
老いた母にとって、元々結構な重労働だったが、
近頃、その間隔がだんだん短くなり、
先日は、とうとうネジを巻いて２日目で止まってしまった。

時計屋に見てもらったら、
修理には１万円以上かかると言われた。
思い出の詰まった時計ではあるが、
ネジ巻きが大変になってきた母は、
修理を諦めて別の部屋にあった時計を代わりにかけた。

　：アンティークというには新しいし、
　　中途半端に不便なのよね。

ネジ巻きから解放された母は、
言い訳するようにそう言った。
役目を終えた古時計は、
父の仏壇の横にそっと横たえられてあった。