ねじ巻き

母の家の古い柱時計、

　：近頃、どうも遅れがちになったみたい

と、母が言う。
修理したばかりなのにと思って眺めていると、
時間になっても鐘が鳴らない。
もしやと思って調べてみたら、
二つあるゼンマイのひとつがカラになっていた。

いつねじ巻きをしたのかと尋ねると、

　：いつだったかしら

と、はっきりしない。
８０を過ぎた母には、
高い場所の時計のねじを巻くのは、
そろそろ辛くなってきたのだろう。
片方だけ巻いて止めてしまったらしかった。

その日から、週１回、柱時計のねじを巻くのが、
私の係りになった。
母の家を訪ねた時に、時計のねじを巻き、
居間のカレンダーに印をつける。

居間のカレンダーには、他にも、
携帯電話を充電した日なども記録されている。
物忘れが多くなったと自覚した母が、
数日おきにしなくてはならないことを
こまめに記録するようになったからだ。

姉や孫たちのスケジュールから、
ほとんど毎日入る風呂の記録や洗髪の記録までしてあって、
カレンダーはすっかり印だらけである。