母の万歩計

母が、万歩計をなくしたとメールしてきたのは、
先週のことだった。
久しぶりに出かけたコンサートの会場で、
落としてしまったらしい。

気がついて、あたりを探したが見つからなかったので、
仕方なくあきらめたそうだ。
しかし、前々から、
すぐに間違ってリセットボタンを押してしまうので、
触ってもゼロに戻らないのが欲しいと考えていたようで、

　適当なものを選んで買って来て

と、メールしてきたのだった。

　距離が出るのがいい

とも書かれていたので、
某大型電気店に出かけて、
蓋付きの歩数計を買い、母に届けた。

使用開始前に、年齢や歩幅を入力すると、
歩いた歩数と距離が１週間分記録されるらしい。
母は、蓋が付いているのが気に入って、
早速、スカートのベルトに歩数計をつけて、
家の中を歩き回っていたが、
しばらくして、

　：これ、おかしいよ。

と言い出した。
歩いた歩数が３０歩にも満たないのに、
カウンターは、７０、８０と、
勝手にどんどん上がっていくと言うのだ。

そんなはずは無いと思って、説明書を読むと、

　蓋の開閉時の振動をカウントしてしまうことがあります

という注意書きがあった。

母は、新しい歩数計が、正確かどうかを調べるために、
少し歩いては、蓋を開けて中のカウンターを調べていたため、
それが、いちいち加算されてしまったらしい。

蓋の無い歩数計に交換してもらおうかと言うと、
母は、

　：蓋を開けっ放しでしばらく使ってみるよ。

と言って笑った。

翌日、母から、またメールがあった。

　万歩計、今朝見たらゼロになってました
　何でも慣れれば使えるようになりますね
　いろいろ有難う

時計機能で、日付が変わると
自動的にカウンターがリセットされるので、
自分でゼロに戻す手間が省けたということらしい。

新しいものに順応できる母は、
まだまだ若いと改めて思った。