父の記憶
ある時、母に、
:あなたは、○○さんのこと、ご存じ?
と聞かれた。
「○○さん」というのは、亡くなった父の名前だった。
よく知っている、と答えたら、
:何で知っているの?
と、不思議そうに聞いたので、
病院で亡くなる時に、ずっと手を握っていたのは私だからと答えた。
母は、
:私は何も覚えてないのよね。
と、言った。
母が今覚えていて話すのは、
結婚前の若いころのエピソードばかりだ。
初めてのデートのことなどは、克明に覚えているが、
結婚した後のことや、
死ぬ前に入院して見舞いに毎日通ったことは、
もう覚えていないらしい。
そのせいだろうか、
最近の母は、仏壇に手を合わせることも減っている。
仏壇の点検をしてみたら、お線香が切れていた。
近所で扱っていた店が閉店してしまったので、
次に遊びに行くときは、買って行かねばと思った。
楽しい思い出があれば、
死んでしまった時の悲しい記憶は、
無くなって良かったのかもしれない。
:あなたは、○○さんのこと、ご存じ?
と聞かれた。
「○○さん」というのは、亡くなった父の名前だった。
よく知っている、と答えたら、
:何で知っているの?
と、不思議そうに聞いたので、
病院で亡くなる時に、ずっと手を握っていたのは私だからと答えた。
母は、
:私は何も覚えてないのよね。
と、言った。
母が今覚えていて話すのは、
結婚前の若いころのエピソードばかりだ。
初めてのデートのことなどは、克明に覚えているが、
結婚した後のことや、
死ぬ前に入院して見舞いに毎日通ったことは、
もう覚えていないらしい。
そのせいだろうか、
最近の母は、仏壇に手を合わせることも減っている。
仏壇の点検をしてみたら、お線香が切れていた。
近所で扱っていた店が閉店してしまったので、
次に遊びに行くときは、買って行かねばと思った。
楽しい思い出があれば、
死んでしまった時の悲しい記憶は、
無くなって良かったのかもしれない。