形見

夫が亡くなってしばらくたった時のこと、
勤め先に夫の私物を取りに行った。
既に私物は纏められていたが、
ルーペが一つ見当たらなかった。

そのルーペは、私がずっと使っていたもので、
私が勤めを辞めて使わなくなり、
夫が、丁度仕事に必要になるというので、
プレゼントしたものだった。
印刷の版下ではよく使うものなので、
特に貴重な品ではないが、
思い出の品だったので、探してもらった。

会社の備品に紛れていたが、
私が昔自分の名前を書いておいたので、
それが目印になり、すぐに見つかった。
今ではそれが、夫の形見と言えなくもない。

現在、家を工事していて、
巻き尺を１個紛失した。
今は亡き父が、くれたものだった。
父が１０年、私が３０年使ったものだが、
金属製なので、今も狂いなく測れる。
今となっては、父の唯一の形見だったのだが、
名前を書いておかなかったので、
もう、見つからないかもしれない。
残念なことをした。