どた靴

母と靴を買いに行った。
長年愛用してきたサンダルが壊れて、
同じようなのが欲しいと言っていた母。
しかし、同じサンダルは売っておらず、
似た様なものを買ったのだが、
どうもしっくりこないと言うので、
私が履いているようなスニーカーを勧めたら、

　：そういう「どた靴」もいいかもね。

と、一緒に買いに行くことになったのだ。

母が靴を買う店は決まっている。
この町で５０年以上も店を構えている古い靴屋である。
私も、子供の頃は、この店で母に運動靴を買ってもらったものだ。

店に入ると、母は、私の靴を指差して、

　：この人が履いているみたいな靴ある？

と、尋ねた。
店員は、それならちょうどお勧めのものがありますと言って、
店の奥から黒い運動靴を持ってきた。
靴紐の横にファスナーが付いていて、
一度紐を結べば、その後は結びなおさなくても脱ぎ履きができる靴だった。
母は、すっかり気に入って、その靴を買って、
そのまま履いて帰った。
帰り道も、

　：履いてないみたいに軽いわ。

と言って、予定になかった寄り道までして、
すっかり上機嫌だった。

夏の間、暑さで、朝の散歩を控えていた母だったが、
少し涼しくなり、靴も新調して、
朝の散歩を再開したそうだ。