母の室内履き

昨年のクリスマス前のこと、

　：ふわふわの室内履きが欲しい。

と、母が言った。
その時履いていたのは、
やや薄手の室内履きだったので、暖かさが足りない上に、
履く時に、手を添えなければならず、
いちいち屈んで履くのが大変だったようだ。

　：もっと厚手で手を使わなくても履けるのが欲しい。

と言うので、
底に滑り止めのついたブーツのような室内履きを買って持って行った。

すると、母は既に、
私が買った物より高級そうな室内履きを履いていた。
どうやら、来る人ごとに同じ事を言っていたらしく、
一足先に、孫娘が買って来て届けたようだ。

　：暖かくて履きやすいわ。

と、喜んでいたので、
私が買って行った方は、
私が母の家で履くことにして、置いて帰った。

数日経って、母の家を訪ねると、
母は、私が買って行った室内履きを履いていた。
理由を尋ねたら、
高級な室内履きは、しっかりとした作りなので、
上から突っかけサンダルが履けないのが不便なのだそうだ。
私が買って行った安物は、
厚手ではあるが、靴下のようにふにゃふにゃなので、
ベランダに干し物をする時や
玄関に人が来た時に、上からサンダルを履いて、
さっと出られるのが便利だったらしい。

そんな話をしているところに、
もう１足室内履きが届いた。
母が、以前に生協の通販で注文したものだった。
今度のものは、モコモコしたスリッパだったが、
履き口が細く、脱げにくくなっていた。

　：スリッパだらけになっちゃったわねぇ。

母は、そう言って笑っていたが、
年が明けて、２週間が経った現在、
母の足元を見てみたら、
以前から履いていた薄手の室内履きを履いていて、
新しい３種類の室内履きは、
部屋の隅にきちんと並べられてあった。

ガスの温風ヒーターを買って、
足元が暖かくなったのが、
どうやらそうなった理由らしかった。