曽祖父と祖父のこと

父方の曽祖父は、釣り好きだった。
畑仕事は家人に任せて、
毎日釣り三昧の日々を送っていた。
腕前が良かったので、
美味しい魚のお土産を期待して、
家人もあまり咎めたりしなかった。

曽祖父には、子供がいなかった。
家はその辺りでは、古くからの地主だったので、
途絶えては困ると、養子を迎えた。
それが母方の祖母の兄であった。
近所に住む娘と見合い結婚させて、
家を継がせることにした。

結婚生活は、長くは続かなかった。
嫁が、家出してしまったからだ。
特に夫に不満があったわけではなく、
都会に出て職業婦人として自立したかったというのが、
家を出た理由だった。
祖母の兄も追いかけて一時は都会で暮らしたが、
家を継ぐための養子だったので、
結局、家に連れ戻され離婚させられた。

その後、別の女性と再婚したが、
前妻を忘れられなかった。
新しい妻も、それに気付いていて、
結局夫婦は、心から打ち解けることは無かった。
夫の方は、前妻の写真を死ぬまで大事に持っていたし、
妻の方も、自分と夫の洗濯物を絶対に一緒には洗わないことで、
生涯、無言の意思表示をし続けた。

夫婦には５人の子供が生まれた。
その中の一人が、私の父であった。