祖母の話

私の祖母は、漁師の家に生まれた。
祖母が、未だ小さかった頃、
父親は海で死んだ。
大漁で港に戻る途中に、
船が転覆して亡くなったのだ。

父親がなくなった後、
母親は、祖母とその兄を残して、
他家に嫁いでいった。
残された兄妹は、
親類の家で育てられた。
恋しくて母に会いに行ったが、
知らない家に嫁ぎ、子供も生まれ、
すっかり他人のようになった母親には、
以後、二度と会うことは無かった。

小学校は、山の向こうにあり、
祖母は、毎日、山越えをして通った。
成績がよかった祖母は、
教師に上の学校への進学を勧められたが、
経済的余裕が無く諦めた。
本当は、進学したかったのだと、
後に母は、何度か聞かされた。

やがて兄は養子に行き、
祖母は、村の大工と結婚した。

二人目の子供が生まれた頃、
関東大震災後の建設ラッシュで、
大工の仕事が増えたため、夫婦で上京した。
祖父は、工務店を作り、職人を何人も雇った。

それから数年後、母が生まれた。