チケットを買いに

その日、母は、朝から血圧が高かった。
秋川さんのコンサートチケットが売り出される日だからだ。

いつもなら、姉がインターネットで購入するのだが、
チケットをネット販売しないコンサートだったので、
仕事で多忙な姉の代わりに、
母が、自分で窓口に出向いて購入することになっていた。

何かいつもと違う予定が入ると、
それだけで血圧が上がってしまう母に、
周囲は、一応に、またかという反応である。
医者までも、

　：あなたは、本当は血圧は高くないんですよ。

と言いながら、精神安定剤を処方する。

母は、血圧が上がりだすと、
止せば良いのに、しつこく血圧を測る。
その測定値を見て、また、血圧が上がるという悪循環である。

チケット売り出しの時間が近づくと、母は、

　：命懸けで行ってくるわね。

と、大げさな言を残して、
私のもうひとりの姉に付き添われて出かけて行った。

数時間後、無事にチケットを手に入れた母は、
上機嫌で姉に買い物した荷物をごっそり持たせて帰宅した。
血圧の心配も、何処かに吹き飛んだようである。