転ばぬ先の杖

母が電話のコードに躓いて転倒した。
板の間の床にばったりと転んだのだが、
幸いかすり傷ひとつなかった。

　：お父さんが守ってくれたんだよ。

と、母は言っている。

元々、電話のコードは、
引っかかるような場所にはなかったのだが、
伯母が些細な用件でいちいち電話してくるので、
座って話ができるようにと、
キッチンのテーブルの上に乗せたまま、
置き忘れてしまったのが原因だった。

　：もう、絶対電話は動かさないわ。

と、すっかり懲りたように話す母。

室内と屋外の違いはあるが、
私も数年前に同じように転んで、
頭や腕を骨折したことを思うと、
母は、今でも、かかりつけの病院で、
骨密度は、同年代の中では最高といわれるだけあって、
母の骨の丈夫さは筋金入りの様である。

　：メザシと牛乳は、毎日欠かさないからね。

そう話す母を私も見習わねばと思った。