空焚き

いつものように訪ねて行くと
母が風呂の空焚きをしてしまって慌てていた。
家中に昆布の匂いが混じった不思議な臭いが漂っている。

　：昆布も煮ていたからね。

と、母。
空焚きした風呂釜からは、
たくさんの煤のかけらが出てきて、
風呂桶の底に溜まっている。
母は、諦め切れないように、
風呂に水を張って風呂釜の点検をしていた。

　：ちょうど午後から水道屋さんが来る事になっているから。
　　ついでに聞いてみるわ。

母の家では、普通のガスの風呂釜を使っているが、
私の家では、十年以上前からガスと電気を併用した
マイコン制御の風呂釜を使っている。
この機に、良い風呂釜に変えればと言ったら、

　：しゃべる風呂釜はどうもねえ。

と乗り気でない。
親戚のおばあさんが、
しゃべる風呂釜と会話しているという話を聞いて、
まだ、自分はそこまで惚けていないと
頑なな母であった。