母の日記・ジグソーパズル

母が玄関の所で、やりかけのジグソーパズルを捨てていた。

父がまだ元気だった頃、ジグソーパズルは父と母の共通の趣味だった。
父がジグソーパズルをする時だけはタバコを吸わないのだと知り、
私も、父や母の好みそうな風景のパズルを探しては、プレゼントしていた。

父が、タバコを吸い始めたのは、
若い頃所属していた特攻隊で、支給されたのがきっかけだった。
母や娘たちが、健康のために減らせばいいのにと言っても、
お上が吸えと言ったのだからと、けして言うことを聞かなかったのだ。

だから母は、父とジグソーパズルをする時間を少しでも長くするために
たくさんのジグソーパズルを箪笥の上にストックしていた。


父が亡くなった今、母はもうジグソーパズルをしない。

　：一人でやってたって面白くないもの。
　　今は他に楽しいこと見つけたし。
　　残り少ない人生なんだから、時間は有効に使わなくちゃね。

そう話しながら、残ったピースをざらざらとゴミ箱にあけると、
新之助に餌をやるために家の奥へ入って行った。