おばあちゃんのnintendogs日記

ヤフーブログから引っ越してきました。

母と詐欺師

先日、母の家を訪ねたら、
母が、自宅の黒電話を見つめながら、

 :今、電話を待っているの。

と、言った。
なんでも、孫のひとりが電車に鞄を忘れたとかで、
警察に届けたときに、連絡先を母の所にしたというのだ。

 :みんなには、内緒にしてくれっていうんだよ。

母は、どんな内緒話も、私には話してくれる。
件の孫は、結構おっちょこちょいな男だから、
そんなこともあるのかなと、思っていると、
黒電話が、鳴った。
耳が遠くなった母が、
電話の音に気付かずにいるので、
電話が鳴っているよと教えると、
母は、いそいそと受話器を取った。
電話の相手は、孫の名前を名乗った。

警察からは、まだ、連絡がないと母がいうと、
相手の男は、急に大金が必要になったと切り出した。
母は、隣にいる私にもわかるように、
相手の言葉を復唱しながら、
ちょっと困ったような顔をした。
なんでも、失くした鞄の中に、
大切な会社の書類が入っていて、
要は、金を持って行かないと首になるという話だった。

隣で聞いていて、これは詐欺だと確信したので、
母に、電話を代わってくれと言ったが、
母は、まだ、相手を孫だと信じているようで、
受話器を両手で抱え込んでいて離さない。
件の孫は、調理師である。
冷静に考えれば、話がおかしいことは明白である。
仕方なく、わざと相手の男に聞こえるような大声で、
こいつは孫じゃない、詐欺師だと、
孫に確認すれば、すぐわかるからと、
母が電話を切るまで言い続けた。

一方、母は、電話の男に対して、

 :そんな相談は、あなたの親にしなさい。
  私は、あんたのためにびた一文出す気はないんだから。

と、話していた。
母は、父が亡くなった時に、
子供や孫たちに生前贈与を済ませていて、
今は、年金暮らしである。
その金額も、年々減額されていて、
実際、余裕など無いのである。

母に、断られたためか、
私の怒鳴る声が聞こえたのか、
また電話すると言っていた男だったが、
その後、電話はかかってこなかった。

勤め先の姉に連絡して事情を話すと、
姉から話を聞いた本物の孫が、
すぐに母の家にやってきた。
その日は休暇で、家にいたのだそうだ。
自分の名前が騙られたと知った孫は、

 :ふてぇ野郎だ。

と、言った。