無いと困る物

母が、切羽詰ったような声で電話をしてきた。
ＤＳの充電器が無くなったのだと言う。

　：いつも、コードをくるくる巻いて、
　　この引き出しにいれるのに。

余分にあった充電コードを届けに行った私に、
母は、居間の引き出しを開けて、何度も繰り返し訴えた。

そんなに慌てなくても、
母の家には、もう一台ＤＳがあるのだから、
コードが見つかるまでは、
そちらで遊べば良いのにと言うと、

　：こっちのでも遊べたんだっけ？

と、すっかり忘れてしまっていたようだ。
もう一台はＤＳライトだったので、
充電コードの差込口が合わず、
そればかりが気になって、
そっちを代わりに使うことまで考えられなかったらしい。

私が持参した充電コードで母のＤＳの充電をして、
充電が終わると、母は、

　：見つかるまで貸しておいてね。

と言って、いつものように、
コードをくるくると巻いて、
それを輪ゴムでとめようと、台所の引き出しを開けた。

引き出しの中には、輪ゴムが入った紙箱と、
探していた母のＤＳの充電コードがきちんと収まっていた。