靴下のゴム

母は、靴下のゴムのきついのが苦手である。
８０を過ぎてからは、
殊更に嫌うようになって、
ゴムの緩いソックスを買い求めるようになった。

それでも足りなくて、
色々な所に靴下のゴム口をはめて伸ばしている。
ある時は、箪笥の取っ手に、
またある時は、ティッシュのケースに。
洗濯物のハンガーに固定する時は、
滑り落ちないように、きちんと両側を洗濯ばさみで止めている。

　：こんなに苦労して伸ばしても、すぐに元に戻ってしまう。

と、母は嘆く。
私のように安物を買えば、
苦労せずともすぐに伸びるのだが。

先日、母の家に行った時、
また、靴下のはめられた小さな入れ物を見つけた。
部屋の片隅に置き忘れられ、
靴下ですっぽりと覆われたその入れ物の正体は、
暮れからずっと母が探していた
ＤＳのカードケースだった。

　：特に遊びたかったわけじゃないけど。

ケースを受け取った母は、
そう言いながらも、どこか嬉しそうだった。